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第21回梓会出版文化賞受賞出版社梓会出版文化賞(株)御茶の水書房 賞状 記念品 金五拾萬円 梓会出版文化賞特別賞(株)ナカニシヤ出版 賞状 記念品 金弐拾萬円 (株)保育社 賞状 記念品 金弐拾萬円 出版梓会新聞社学芸文化賞株)現代思潮新社 賞状 金弐拾萬円 第21回梓会出版文化賞によせて上野千鶴子(東京大学) 昨年盛大に祝われた梓会20周年を経て、あらたな再スタートの今年は、異色の小出版社が授賞対象となった。御茶の水書房、小体ながら、この年度はかくべつに健闘しているところが複数の審査委員に買われて、今年もすんなり出版文化賞は決定した。他に特別賞が二社。審査委員の方々は、見るべきところを見ていると言えようか。 御茶の水書房の今年の出版物には、無名の著者による論争的な書物がならんでいる。ひとつは保苅実著『ラディカル・オーラル・ヒストリー‐オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』。32歳で病没した著者の、本書はオーストラリア国立大学へ提出した学位論文の日本語版である。「ケネディ大統領がやって来た」といった実際にはありえないような想像や伝承を含むアボリジニのオーラルヒストリーを「歴史」と呼べるか?と著者がつきつける問いは、記憶と語り、歴史との関係を問いかけて、真にラディカルな歴史実践と言える。もうひとつは野村浩也著『無意識の植民地主義』。沖縄出身の若手の社会学者である著者は、沖縄フリークの本土からの観光客に決まってこういうことにしているという。「そんなに沖縄が好きなら、基地も持って帰って。」日本の領土の1%を占める沖縄に米軍基地の70%があるという日米安保体制のツケをもっぱら沖縄住民におしつけてきた本土住民にとっては、地雷を踏むような書物だ。かれが主張するのは「負担の公平」というまっとうな要求だが、それすら可能にならない背後には、本土の沖縄に対する「無意識の植民地主義」がある。復帰後30年を経て、ボクたちが「復帰」したのはこんなクニだったのか、とつきつける沖縄新世代ポストコロニアル知識人の鮮烈な声を、届けようとした勇気ある編集者がいた。他にも、徐勝編の『東アジアの冷戦と国家テロリズム‐米日中心の地域秩序の廃絶をめざして』など、今年度はとくに粒がそろったと言えよう。 他に特別賞は二社。ナカニシヤ出版と保育社である。京都に拠点をおくナカニシヤ出版は、京都大学の研究者を中心に、長年にわたって良質な学術図書出版活動をつづけてきている。今年度自薦図書五点は、あたらしい領域である応用倫理の分野で、ビジネス倫理、工学倫理、生命倫理、表象倫理等と分野別に五点をそろえたのは壮観である。編者にそれぞれの分野の中堅を複数組み合わせ、執筆者に大胆に若手を起用して執筆の機会を与えている。学問にもベンチャーはある。おそらく公刊物に論文を執筆する機会はこれがはじめてであろうというような清新なラインナップをそろえて、「未来への投資」を実践している姿勢は、高く買われてよい。ぐんぐんと伸びていくあたらしい学問領域に伴走し、新進気鋭の無名の著者を発掘して育てるのは、出版人の使命であるはずだ。小出版社がリスクを冒してこういう企画を手がける試みは貴重である。 もう一社は、46年に創業以来、59年の長きにわたって原色図鑑シリーズ全77巻をはじめ、図鑑類160巻余を刊行してきた保育社である。今や生物化学や生物物理学と化した感のある生命科学はさかんだが、その全体像である生物や自然への関心は、おきざりにされているように見える。保育社の図鑑は、ほ乳類だけとっても刊行当時の日本在来種全種をもうらしたもの。環境問題から生物多様性や、外来種が問題になっているが、それを知るためにも、日本在来種が何であるかを知ることは基礎知識である。そのためには図鑑の存在は基礎の基礎。欧米には博物学の伝統があり、自然史博物館も充実している。イギリス、ドイツ、フランスには、全数十巻におよぶ生物図鑑もある。日本にもそれに匹敵するだけの、動物から植物にわたる全生物種をもうらした原色図鑑があることを誇りとしたい。(うえのちづこ) 第21回梓会出版文化賞お礼のことば「著者と読者の小さな共同体」御茶の水書房 代表取締役 橋本盛作 このたびは梓会出版文化賞を賜り心からお礼を申し上げます。理事長江草忠敬様、出版文化賞委員会委員長和田肇様はじめ自薦図書を審査・選考してくださった委員の方々に重ねて感謝を申し上げます。先月、事務局長様より受賞のお知らせをいただきましたとき戸惑いを感じましたが、同業社の友人や著者たちのお話を伺ってようやく実感が湧いてきたところでございます。 さて受賞しての感想でありますが、梓会の非会員社ですので社の紹介と長年の仕事を通して学び得たことのひとつを申し上げたいと思います。小社は創業六十年、現在社員は五名の小零細出版社でその前半期は農業・労働問題、社会経済史部門などを中心とした地味な学術図書出版でありましたが、その後人文書分野を順次に加えいまでは人文社会科学の図書出版といえるでしょうか。 このように申し上げますといかにも編集方針は志高く経営基盤も堅固に映るかも知れませんが、社屋と倉庫は賃貸、編集・販売作業は多忙きわまり、そのうえ毎月の資金繰りに苦慮しているような現状でございます。 かつてこの業界に参加したてのころ先達から「出版は一本の木を育てるような仕事である」などというお話を伺ったことがあります。残念ながら小社はそのような明確な目標をもちあわせてはおりませんでしたが、ただひとつ継続だけはしていこうという決意はあったように思います。タイトル「著者と読者の小さな共同体」の意味は当初の目的や志ではなく、年々増えつづけていく著者が同時に小社を支えてくださる読者でもあるということを結果として覚えたこと、したがいまして自分の都合のみで編集方針を変更してはならないということでもあります。自薦図書の企画意図はその方針に沿ったものでありますが、このたび評価をいただきこれにまさる喜びはございません。 (はしもとせいさく) |
