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第18回 梓会出版文化賞受賞当会では、公益法人改組を機会に新たな事業として、厳しい環境の中で優れた書籍出版を行い、わが国の出版文化に貢献している出版社の中から毎年1社を選び、その業績を顕彰する「梓会出版文化賞」を創設いたしました。 対象となる出版社は、原則として年間5点以上の書籍を刊行し、10年以上にわたり継続して出版活動を行っている中小出版社で、各出版社から自薦による図書の推薦をいただき、これを中心として選考委員会で決定いたします。 なお、第18回となる今回の選考委員には、植田康夫氏・石川弘義氏・上野千鶴子氏・小原秀雄氏、の出版物に造詣の深い4氏にお願いして選考委員会を構成していただきました。 梓会出版文化賞:緑風出版梓会出版文化賞 特別賞:かもがわ出版、東京美術
出版は社会の木鐸第十八回梓会出版文化賞によせて東京大学教授 上野千鶴子 第十八回梓会出版文化賞は、植田康夫委員長のもと、小原秀雄、上野千鶴子、石川弘義委員(当日欠席)の合議で、今年度は文化賞を緑風出版に、特別賞をかもがわ出版および東京美術に決定した。わたしは今回初めて審査に参加したが、自薦、他薦を含む計75社のうち予備審査を通過した候補は複数票を獲得しており、今回はすんなりと合意が成立した。 緑風出版は自薦に五点を挙げ、小笠原信之著『アイヌ近現代史読本』パブリック・シチズン著『誰のためのWTOか?』の他、今年最大の業績として、VAWW-NET Japan編による『日本軍性奴隷制を裁く 2000年女性国際戦犯法廷の記録』が、第6巻判決全訳を含めて完結したことをあげたい。女性国際戦犯法廷は女性団体の国際的な連帯のもとで、「慰安婦」問題をめぐって被害者の尊厳と正義の回復をもとめて、2000年12月に東京で開催されたものである。 右翼の妨害やその後のNHK報道特集の自主規制と改ざんについては、耳にしておられる読者の方も多いだろう。判決は、天皇ヒロヒトの有罪判決を含む画期的なもので、これを翻訳出版することにどれほどの困難がともなうかは、想像にかたくない。出版人としての勇気をたたえたいが、すでに緑風出版は’84年から’93年にかけて田中伸尚著になる『ドキュメント昭和天皇』全8巻を刊行した実績を持っている。 「昭和天皇の戦争責任を問う」という広告文があるために、出版広告の掲載を拒否されたという理由で中日新聞を相手に提訴、一審判決を不服として控訴し、高裁で全面勝訴をかくとくしたという筋金入りの出版社である。’82年に設立されてから、戦争と平和関連の書籍のみならず、地方政治、東欧や半島問題、差別や先住民問題など、社会問題に敏感な出版活動を続けてきているが、緑風出版のもうひとつの柱はエコロジー関連図書である。早い時期から自然保護、公害、環境、原発等のテーマを扱ってきたこの分野の実績に、小原委員は高い評価を与えた。 わたしはこの出版社をVAWW-NET Japanの版元として知ったが、こうして設立以来の出版活動の軌跡を見てくると、今年度の業績が偶然ではなく必然の流れであったことがよく理解できる。女性国際戦犯法廷の記録全6巻完結のこの年に、これまでの出版活動の経歴を含めて緑風出版を顕彰することには大きな意味があるだろう。 かもがわ出版も小粒ながら地方の文化活動と結びついた出版活動で好意的な票を集め、かねてより特別賞の候補に何度も挙がっていた。今年度の自薦図書五点にとどまらず、’86年の創業以来発行してきた「かもがわブックレット」は計142点に達する。出版目録のトップにあるのは「 加藤周一の本 」計19点。講演集や対話集とならんで『居酒屋の加藤周一』など、京都の地にねざした市民の文化活動がライブなかたちで記録されている。 扱う主題は京都ローカルの観光や食だけでなく、障害者、高齢者の福祉、環境、ジェンダー、人権などにわたり、出版人としての見識と良心を感じさせる。一地方出版社ながら、今年度『講座21世紀の社会福祉』全5巻を完結した意欲も特筆すべきであろう。販売面でも地方小出版流通センターを活用し、経営面でも出版のほかに宣伝など関連9社と連携するなど、出版不況の中で独自な経営努力を見せていることを高く買う出版人もいた。 もうひとつ、特別賞のダブル受賞を果たしたのは、東京美術である。’60年設立の老舗で、当初東京国立博物館の出版業務を引き受けることから出発し、その後オフセット印刷部門を新設、美術、デザイン、建築、歴史、宗教などの分野を幅広く手がけてきた。今回受賞の対象となったのは、 ’77年にスタートし今年2月に完結した『五街道分間延絵図(ごかいどうぶんけんのべえず)』全102巻計104冊の復元刊行である。原本は江戸幕府の命を受けて寛政〜文化年間に作成された五街道を含む27道の詳細な絵図で、’82年に重要文化財の指定を受けた。 原本を約60%に縮小、折り本仕立てとし、原本の書き込み文字までが克明に読みとれる精密な仕上がりとなっており、全巻に現況との比較にもとづいた解説を付している。1冊2万円から6万円にわたる高額な図書であるが、地方図書館等に購入され郷土史の貴重な資料として活用されている。伊能忠敬ブームに先立つこと20年、列島の歴史地理研究を下支えする4半世紀にわたる息の長い出版活動を、その完結の年度にあたって顕彰したい。 長びく出版不況のなかで、年間5点以上継続10年以上という梓会の応募基準は、高いハードルに思える。自薦依頼書送付出版社数は昨年758社、今年は750社、そのうち自薦他薦を含む応募出版社数は昨年96社、今年は75社と減少した。この背後には苦戦を強いられて撤退した中小の出版社もあるだろう。だが、受賞した3社を見ると、地方出版や小出版社でも、企画や経営努力次第で継続する力を持ったところがあることに意を強くする。 緑風出版は筋金入りの硬派、かもがわ出版と東京美術は独自のカラーをうちだしてきた。出版流通の短期サイクル化や、書籍の消耗品化、新聞書評の大衆マーケット志向など出版界のさまざまな困難のなかにあっても、出版は社会の木鐸であるという原点にたちかえりたい。 |
