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「ボクラ少国民」時代の兆
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山中 恒著 四六判 2415円(税込) 勁草書房
敗戦に直面した14歳の軍国少年の心の軌跡を描いた『青春は疑う』(山中恒少国民文庫@2520円(税込))に続く本書は、少国民体験を執拗に書きつづけるきっかけとなった作品である。今回『山中恒少国民文庫』収録にあたり、[追記]37ページと写真50点を増補新装した。
「山中恒少国民文庫(2)」として刊行される本書は、一九七二年正月に児童読物作家として子ども向けの図書しか出版してこなかった山中恒が放送作家を廃業するに際して、初めて大人向けに毎日新聞社から出版したエッセイ集である。
七〇年安保の余燼のくすぶる中で本書の刊行がきっかけとなって、山中恒は当時、井上光晴の個人誌だった「辺境」に『ボクラ少国民』シリーズを執筆するようになる。
どうやら山中恒は、本書で『ボクラ少国民』シリーズの前奏というか、序文というか、予告のようなものを書いていたことになる。
エッセイ集とはいうものの山中恒の出生にどのような因縁話があったか、あるいは大人たちに囲まれての滑稽で雑駁な生活環境で育った結果のおっちょこちょいな性格と三つ子の魂百までの困った根性形成などを自伝的連作でやけくそ気味なバナナの叩き売り口調の文体で自ら暴露している。
その一方で北海道の文化・経済の玄関口である小樽の人々の生活風習の背後に忍び寄りつつあった軍国主義の大日本帝国の不気味な息づかいが何気なく描かれている。まさにこれは「ボクラ少国民」時代への前夜である。
今回、辺境社の「山中恒少国民文庫(2)」として復刊するに当たり、山中恒の幼児期の写真や当時の家族集合写真や愛読書の書影などを挿入し、短いコメントを付して若干ビジュアルな配慮もしている。
また毎日新聞社版・旺文社文庫版などで、おぼろげな記憶による思いこみで誤った記述をしてしまった部分について、それぞれの章末に【追記】として訂正や補筆をしている。
それと初版発行当時は政治的配慮もあって登場人物の名前も伏せられていたが本書ではそれも【追記】で明らかにしている。
同じように、六〇年代に政治的色彩の読書運動と結びついての未曾有の隆盛期を迎えた日本の創作児童文学の知られざる一面、それも今日までに児童文学史書や児童文学評論書が触れてこなかった露骨な政治的異分子差別・排除の実態についても言及している。
今日、日本の創作児童文学は極めて低調でアナーキーな状態で、児童文学の理念も確乎たるものが無いとまで言われている。そうした中で再び教育現場では読書をカリキュラムに組み込もうという風潮もでてきた。しかし当時の児童文学界の主流となった政治的な作品評価の呪縛から抜け出さない限り、あまりよい見通しが立たないことも【追記】が明らかにしている。
また初版刊行当時に、すでにテレビジョンという電波マスコミが世論をミスリードする恐れがあるという危惧を三里塚闘争や新宿反戦フォークデモといったものに言及しつつ警告している。同じく、コンピューターによる情報管理が国民のアイデンティティーまで管理するようになるかも知れないという危険な予言もしているが、今や住民基本台帳ネットワークやら、テレビによる横暴なプライバシー破壊やらが横行しており、横暴なテレビカメラの映像の恣意的なデザインの根底を確かめる必要があるとも警告している。
最近の有事関連法など危険な復古主義が戦争を知らない世代によって押し進められている。改めて一九三〇年代半ばから一九四〇年半ばまでの歴史を研修し直す必要がある。かつての国家総動員法よりも過酷な有事法制がもたらす現実を認識し直す必要がある。
今や『餓鬼一匹』の山中恒も『耄碌一匹』になりつつ、なおも『餓鬼一匹』であろうとしている。
二八○ページ
辺境社刊勁草書房発売
〒112-0005
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TEL〇三-三八一四-六八
FAX03-3814-6854
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