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死に方を選ぶということは生き方を選ぶということ
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ジャン=マリ・ロラン著 四六判 1890円(税込) 原書房( この本のページ )
朝日新聞国際面記事で話題の本、ついに日本版登場。10歳から車椅子生活を余儀なくされたジャン=マリ・ロランは、世界を旅し、会社を起こし、メディアで障害者の権利を訴え、安楽死を選んだ。激しく生きた彼が、死を目前に遺した自伝。
ある事件
私がジャン=マリ・ロランのことを知ったのは、2000年の暮れの朝日新聞の記事だった。
あるベルギー人が、インターネットで募集した医師の介助を得て、安楽死したという。オランダでは安楽死合法化法案が可決されたが、ベルギーでは未だ犯罪だ。その罪をおしても介助しようと他人に決意させるほどの、死への意志とはいかほどのものだったのだろう。
そして、故人は死を目前にして自伝を出版した、とも記事にはあった。その自伝が本書である。
よりよく生きたいという望み
「なぜ生きているのだろう」――そんな疑問を抱くのは、傲慢で贅沢なことだ。「生きている実感がない」なんていう愚痴を聞くたびそう思う。疑問なんて抱いている暇もなく、ただ日々を食いつないでいくことだけを日本人が考えていたのはつい数十年前のこと。今だって、世界のそこいらじゅうに見られる光景だ。
だけど私たちは、よりよく生きたいと、意地汚く望まずにはいられない。ここでの「よりよく」というのは観念的なものだけを指すのではなくて、うまいものが食べたいとか、偉くなりたいとか、異性にもてたいとか、卑俗にして重大な損得勘定のことも含む。社会を発展させたり、破綻させたりしてきたのもこの欲求だろう。
生前のロランは、神経性進行性筋萎縮症のため10歳から車椅子を使って生活してきた。病状は進行し、徐々に手も使えなくなってゆくのだが、ハンディキャップに屈することなく果敢に人生を歩んでいた……とそれだけ聞けば、聖人君子が頭に浮かぶだろう。ところが彼は俗臭ぷんぷんで、「よりよく生きたい」という本能にとても忠実に生きた、それだからこその好人物なのである。
ロランは障害者の権利を向上させるという高潔な理想のために奔走した。旅を愛し、すべての人とその喜びをわかちあいたいと障害者のための団体旅行を企画して、ついには旅行代理店を経営するまでになった。政治活動を行い、ラジオやテレビで障害者が抱える問題をレポートした。これだけのことを成し遂げるための、彼の努力も根性も並大抵ではない。
だけど女好きでパーティ好きで、金にこだわり名誉をほしがる、そういう人物でもあった。本書では、出会った困難も、やんちゃ心が引き起こした事件も、ざっくばらんな口調で語られているのが、なんともいえず人間くさくていい。
命の尊厳
これほど生きることに執念を燃やした人物が自ら死を選んだ理由は、病状が悪化したことにある。四肢の動きはほとんど奪われ、わずかに指先と首をひねることができるのみとなった。「泣いても、自分で涙をぬぐうことさえできないのだ」と本書には著されている。明晰な頭脳が、檻でしかない肉体の中に閉じ込められてしまったとき、彼は人間らしく最期を迎えたいと安楽死を考えたが、主治医はその願いを聞き入れてはくれない。だからインターネットでの呼び掛けをはじめたのだ。
ここで私はまた「なぜ生きるのだろう」という疑問に立ち返ってしまう。彼の苦しみは行間から立ち上ってきて胸が痛むけれど、その選択に共感するけれど、それでもやはり生きることはできなかったのだろうか、生きてほしかったと思わずにはいられないのだ。「よりよく生きたい」という願いの行き場が見えないとき、人は生に意味なんてない、と思ってしまう。そしてその願いが叶いそうもないとき、生をあきらめてしまったりもする。
できることなら、獣のようにしぶとく命を全うすることだけ考えたい。「よりよく」という欲得と適度に距離を置くことができたとき、私たちの心は少し軽くなるはずだから。
ロランが死を選んだことが誤りだと言いたいのではない。ただ、正しい選択が何なのか答えに窮している。この先もずっと窮したままだろう。
人生を愛し続けることはほんとうにむずかしい。だけど誰もがそうして生きてゆけることを願う。
そんなことを考えながら、この本を作っていた。
原書房
〒160―0022 東京都新宿区新宿1―25―13
TEL03(3354)0685
FAX03(3354)0736
08.04.21 『台頭する中国の草の根NGO』
08.03.21 『フェルメールの秘密』『ルソーの夢』『レオナルドの謎』『ゴッホの魂』
08.02.21 『原典現代中国キリスト教資料集』
08.01.21 『エウクレイデス全集』[全5巻]
07.11.21 いまなぜ信金・信組か
07.09.21 『百人一首大事典』
07.08.21 『世界がキューバ医療を手本にするわけ』
07.07.21 (1)『いのちってなんだろう』 (2)『自分ってなんだろう』
07.06.21 『10代の心と身体のガイドブック』
07.05.21 新自由主義
07.04.21 大学での学び方―「思考」のレッスン―
07.03.21 南原繁の言葉
07.02.21 『吉野裕子全集』
07.01.21 藤沢周平に学ぶ―人間は、人生は、こうありたい……―
06.11.21 『ブラックバスを退治する』
06.09.21 「私を忘れないで」とムスリムの友は言った
06.08.21 『プロカウンセラーが読み解く 女と男の心模様』
06.07.21 憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本
06.06.21 復刻版 大宇宙の旅
06.05.21Dr.金田一&柴田理恵のことば診療所
06.04.21脱アイデンティティ
06.03.21農業技術事典NAROPEDIA
06.02.21アメリカの連邦財政
06.01.21舞台一阪神淡路大震災】全記録
05.11.21国際政治事典
05.09.21自然と人間リーディングス
05.08.21子ども図書館をつくる
05.07.21戦後史大事典
05.06.21愛する人がアルツハイマー病になった時
05.05.21子どもの英語学習
05.03.21マンガ 出張先は北朝鮮
05.02.21現代農業
05.01.21ナラティヴの臨床社会学
04.11.21「ひろさちやの祖師を読むシリーズ」全6巻
04.09.21安房直子コレクション全7巻
04.08.21写真でみせる回想法
04.07.21臨床心理学全書 全十三巻
04.06.21マキャベリ的知性と心の理論の進化論
04.05.21『サトラップの息子』『クレモニエール事件』『石、紙、鋏』
04.04.21夏目漱石原稿「道草」全三巻
04.03.21写真ものがたり 昭和の暮らし 全5巻
04.02.21育ちゆく子に贈る詩(うた)
04.01.21いきものをまもるシリーズ1 コウノトリのふるさと
03.11.21《花の詩画集》 花よりも小さく
03.09.21ダイナミック・メディシン 全七巻+別巻 完結
03.08.21大和の古墳I
03.07.21水をめぐる人と自然
03.06.21定本 手塚治虫の世界
03.05.21変わる家族 変わる食卓
03.04.21新英和中辞典 第7版
03.03.21餓鬼一匹
03.02.21魂の錬金術
03.01.21(図説)世界の歴史(1)「歴史の始まり」と古代文明
02.12.21耳をすまして
02.09.21ドイツの生涯学習
02.08.21星空散歩ができる本 南半球版
02.07.21仏教美術事典
02.06.21一日一書
02.05.21「現場」のちから
02.04.21検証―なぜ日本の科学者はむくわれないのか
02.03.21誰か死ぬのを手伝って
02.02.21アイデンティティとライフサイクル論
02.01.21認知意味論のしくみ
01.11.21(シリーズ身体とシステム)第1期全6冊
01.09.21国鉄・JR 列車名大事典
01.08.21ミステリー・リーグ