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本格ミステリーの行方
柴田よしき著 四六判上製・247頁 1680円(税込) 2001/07/25刊 原書房のページへ ( この本のページ )
愛川晶著 四六判上製・487頁 1890円(税込) 2001/07/25刊 原書房のページへ ( この本のページ )
《ミステリー・リーグ》とは、アメリカの本格推理作家エラリー・クイーンが手がけた雑誌""MYSTERY LEAGUE""に由来します。また、《リーグ》本来の意味である、「連盟」「同盟」、そして面積の単位でもあるこの言葉の、普遍性をもシリーズ名に溶け込ませたいという希いもこめられています。
もちろん時代も状況も異なる現代で、古めかしいものを掘り返そうという意味ではありません。むしろ、新世紀の本格ミステリーの行方を、このシリーズを通じて見つめてゆきたいという気持ちなのだとご理解いただきたいと思います。
そうした思いをこめてこの夏に発進したシリーズ第一弾が、愛川晶『巫女の館の密室』(1890円(税込))と柴田よしき『風精(ゼフィルス)の棲む場所』(1680円(税込))です。
愛川晶氏は94年に第5回鮎川哲也賞を受賞後、ほぼ一貫して真正面から本格ミステリーに取り組み、同時に、家族と血縁の問題を問い続けてきました。
また、柴田よしき氏は95年に第15回横溝正史賞を受賞、ミステリーと恋愛のありかたに軸を置きながら、ハードボイルドからSFまで幅広い作風で高い評価を得ています。
一見、対照的な作風の二人を同時刊行としたことで、逆に《ミステリー・リーグ》ではなにをやろうとしているのかを示すことができたのではないかと考えています。
『巫女の館の密室』は、インカ文明の太陽神殿を模した石造りの建物が舞台の中心となります。誰も出入りができるはずのない特殊な開閉装置を持つその建物の中で見つかった10年前の他殺死体の謎と、それを繰り返すかのような現代の密室の謎が物語の根幹です。これに代理探偵根津愛がいどむわけですが、前代未聞の度肝を抜くようなトリックにくわえ、これらの謎を成立させるために欠かせないある一族の人間関係とインカ文明をめぐる物語が、同時に現代の血縁と青少年の意識を浮き彫りにしています。ミステリーとしての驚きもさることながら、こうした点での読み応えも十分な力作です。
『風精(ゼフィルス)の棲む場所』は、京都北山の、さらに奥へ分け入ったところにある寒村が舞台です。そこへファンからの誘いを受けて招かれたミステリー作家浅間寺竜之介は、村人たちとともに鎮守の奉納の舞いを見物することになります。そこで舞手のひとりが人々の目の前で殺されてしまいます。村人はお互いが視野に入っていたという、一見不可能なこの殺人も、やがてある可能性が見いだされますが、そこに浮かび上がった真実は狂おしいほどの切なさに満ちたものです。女性に対する日本的なシステムを、物語に有機的に組み込むことで浮き彫りにされたある恋愛観が心に残る逸品といえます。
このあとも続々と刊行してゆく予定です。ある町で起こった殺人事件をめぐるロンドともいえそうな『たったひとつの 浦川氏の事件簿』(斎藤肇)、探偵小説の黄金時代を彷彿とさせる仕掛けが見事な『グラン・ギニョール城』(芦辺拓)、今年度の朝日新人文学賞を全選考委員一致で受賞した『贋作「坊っちゃん」殺人事件』の新鋭による『饗宴・ソクラテス最後の事件』(柳広司)など、目白押しです。
本格ミステリーは、謎が提示されてそれを探偵役が順を追って解いてゆくものだから、しょせんはクイズに過ぎない、という意見も聞きます。また、本来自由であるはずの小説表現を、一定の様式で縛ってしまうことで完成度を落としている、という見解もあるでしょう。どちらも一面、間違ってはいません。 しかしこれを評価するとき、こう考えてはどうでしょう。「謎解き」とは何がいかにして解かれるのかが重要なのではないか、「様式」とはある種の芸術表現と不可分なのではないかと。
つまり、犯人を捜し出すことだけが本格ミステリーなのではなく、物語に秘められた人間の感情、記憶、社会への意識が解かれてゆき――たとえば無私の愛を捧げていた人をどうしてこんな方法で殺さなくてはならなかったのか、大量殺人の中でどうしてあの人だけ生き残らなくてはならなかったのかなどと――その行く末に、なにがしかの「真実」を読者に提示しているのではないかということです。
また、歌舞伎や和歌はその様式美によって芸術性が保たれています。言葉の用い方や所作への制限は、そのまま制作者のモチベーションにも置き換えることができるでしょう。限られた中でいかにして十全を表現すればよいか、ひとつの言葉にどれだけの意味を内包させればよいかといったような。
こうして考えてゆくと、本格ミステリーというジャンルの奥深さに気づかれるのではないでしょうか。また、そのように読む読者がいたからこそ、90年代以降のいわゆる「新本格」ブームも生まれたのだと思います。でなければ、京極夏彦も東野圭吾も生まれなかったはずです。
これからなにが始まってなにが終わってゆくのか、作品を読者へ提供する立場としても見据えてゆきながら、本格ミステリーというエンターテインメント文芸が持つ力、その一端でもこの《ミステリー・リーグ》が担えればと願います。
08.04.21 『台頭する中国の草の根NGO』
08.03.21 『フェルメールの秘密』『ルソーの夢』『レオナルドの謎』『ゴッホの魂』
08.02.21 『原典現代中国キリスト教資料集』
08.01.21 『エウクレイデス全集』[全5巻]
07.11.21 いまなぜ信金・信組か
07.09.21 『百人一首大事典』
07.08.21 『世界がキューバ医療を手本にするわけ』
07.07.21 (1)『いのちってなんだろう』 (2)『自分ってなんだろう』
07.06.21 『10代の心と身体のガイドブック』
07.05.21 新自由主義
07.04.21 大学での学び方―「思考」のレッスン―
07.03.21 南原繁の言葉
07.02.21 『吉野裕子全集』
07.01.21 藤沢周平に学ぶ―人間は、人生は、こうありたい……―
06.11.21 『ブラックバスを退治する』
06.09.21 「私を忘れないで」とムスリムの友は言った
06.08.21 『プロカウンセラーが読み解く 女と男の心模様』
06.07.21 憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本
06.06.21 復刻版 大宇宙の旅
06.05.21Dr.金田一&柴田理恵のことば診療所
06.04.21脱アイデンティティ
06.03.21農業技術事典NAROPEDIA
06.02.21アメリカの連邦財政
06.01.21舞台一阪神淡路大震災】全記録
05.11.21国際政治事典
05.09.21自然と人間リーディングス
05.08.21子ども図書館をつくる
05.07.21戦後史大事典
05.06.21愛する人がアルツハイマー病になった時
05.05.21子どもの英語学習
05.03.21マンガ 出張先は北朝鮮
05.02.21現代農業
05.01.21ナラティヴの臨床社会学
04.11.21「ひろさちやの祖師を読むシリーズ」全6巻
04.09.21安房直子コレクション全7巻
04.08.21写真でみせる回想法
04.07.21臨床心理学全書 全十三巻
04.06.21マキャベリ的知性と心の理論の進化論
04.05.21『サトラップの息子』『クレモニエール事件』『石、紙、鋏』
04.04.21夏目漱石原稿「道草」全三巻
04.03.21写真ものがたり 昭和の暮らし 全5巻
04.02.21育ちゆく子に贈る詩(うた)
04.01.21いきものをまもるシリーズ1 コウノトリのふるさと
03.11.21《花の詩画集》 花よりも小さく
03.09.21ダイナミック・メディシン 全七巻+別巻 完結
03.08.21大和の古墳I
03.07.21水をめぐる人と自然
03.06.21定本 手塚治虫の世界
03.05.21変わる家族 変わる食卓
03.04.21新英和中辞典 第7版
03.03.21餓鬼一匹
03.02.21魂の錬金術
03.01.21(図説)世界の歴史(1)「歴史の始まり」と古代文明
02.12.21耳をすまして
02.09.21ドイツの生涯学習
02.08.21星空散歩ができる本 南半球版
02.07.21仏教美術事典
02.06.21一日一書
02.05.21「現場」のちから
02.04.21検証―なぜ日本の科学者はむくわれないのか
02.03.21誰か死ぬのを手伝って
02.02.21アイデンティティとライフサイクル論
02.01.21認知意味論のしくみ
01.11.21(シリーズ身体とシステム)第1期全6冊
01.09.21国鉄・JR 列車名大事典
01.08.21ミステリー・リーグ